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会計×IT の深層へ

「ウケる」ということと、商売

商売をする上で、ウケるということは絶対に必要です。ウケなければ何も売れません。

とはいえ、ウケるなら何でも構わずに売るということではないはずです。

モノであれサービスであれ思想であれ、本当に売る価値があると自身が思えるものを売る。その上で、その商品がウケる工夫、世間様に受け入れて頂くための方策を、寝ても覚めても考える。ウケること以前に、その商品に自分自身が価値を見出すことが大事なんです。

生半可に商売をわかった積りになっている人は、ここのところを理解していない。腑に落とせていない。だからすぐに、ウケそうか、売れそうか、という話をする。それが、商売人らしい、リアリスティックでオトナな態度だと思い込んでいる。まったくバカバカしいことです。

実際には逆です。

売れそうだからと思って、自分の思い入れがないモノを売ろうとしたとしましょう。それが売れればまあいい。お金や名声が得られますから満足感はあるでしょう。 でも、売れなかったらどうでしょう。自分でも価値があると思えないようなものを、ただ儲かりそうだと考えて売ろうとして、人生の何年かを費やし、しくじった。バクチで人生をスッたようなものです。こうしたことがもたらす虚無感が精神に与える影響は極めて大きなものだと思います。

売れた場合でも、本当のところ、事態はそんなに変わりません。自分自身、大して良いとも思っていないモノが売れたわけですから、「買った連中」がバカなのです。バカを相手に商売をしてひと山当てた。こうした認識がその人の精神を歪めないわけがない。この世界は自分とともに他の人々が形作っています。世界がバカで出来ていると一生懸命立証してきたわけです。その世界は生きる価値がない。

売れようが売れまいが、「ウケればいい」という指針に従うことは、人生を、つまらないもの、生きるに値しないものにしていきます。

その逆に、自分が本当に良いと思う商品を売り、なぜそれが良いのかを世間に対して説明し、説得していく。そういうことに商売の醍醐味があるのです。売れなかったときには、自分の言葉のつたなさ、伝える手法の不十分さを嘆く。しかしそれは本質的な問題でありません。テクニカルな問題に過ぎない。

そして、ひとりでもふたりでも、共通の価値をその商品に見て、それを買って下さるお客様が現れた時の喜びは形容できません。自分が見た価値を他の人も見てくれる。こんなに嬉しいことはありません。その喜びを全身で味わうために、世間に対して説得を続ける。

それが商人の矜持だと思っています。