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会計×IT の深層へ

予算編成/実績管理 と Excel と FusionPlace

予算編成/実績管理を中心とする管理会計業務は、Excel[*1] の独壇場の様相を呈しています。

一部ではBI(ビジネスインテリジェンス)ツールも用いられていますが、その場合でも、BIツールからExcelシートに手作業でデータを貼り付けて月次の報告資料を作るといった、この分野に通じていない人の耳には笑い話に聞こえるようなやり方がまかり通っているのです。


私は Excel 自体は好きだし良いツールだと思っていますが、同時に、この分野では、守備範囲を越えてExcelが使われすぎているとも考えています。昨年末に FusionPlace を発表したときのプレスリリースで、私は次のように書きました:

スプレッドシートは大変便利なツールです。しかし同時に、スプレッドシートのみに頼ってきた結果、 多くの企業で計数管理担当者は、本来の業務よりむしろ、データをあちらこちらからかき集めるための 計算式やマクロで埋めつくされたスプレッドシートとの格闘に忙殺されるようになっています (こうした状況は「Excel レガシー問題」として知られています)。

FusionPlace はこのような状況に一石を投じたいという想いから開発したわけですから、開発にあたって、どうしてこんな状況が生じているのか、そして、どうすればもっと良くなるのか、ずっと考えてきました。

今日は、このテーマに関する私の考えを少し書いてみたいと思います。

システム構築の費用対効果

医薬品業界を例にとれば、いわゆる「医療用医薬品」と「OTC医薬品(大衆薬・市販品)」では、管理のメッシュも管理項目も異なります。建設業界での、注文住宅とマンション販売も、事業特性はまったく異なるでしょう(使用される知識や技術には共通性があるにしても、事業としては別個であるということです)。

となれば、ひとつの会社が複数の事業を営んでいる場合、各事業ごとに別々の管理会計システムが必要で、かつ、全事業を束ねる立場の「コーポレート管理部門」すなわち経理部や経営企画部にとってのシステムも必要となる公算が高いわけです。こんなにたくさんのシステムを従来型の手法で個別に開発していては、お金も人も時間も、いくらあっても足りません。しかも、個々のシステムごとに見ればユーザ数は多くないから、なおさら費用対効果を正当化しにくいことになります。

変化への対応

管理会計のあり方は、事業特性だけでなく、事情の成長段階や組織構造、経営者の考え方といった要因にも、左右されますから、時間が経てば徐々に(あるいは急激に)変化します。近年では、IFRSといった制度的要因も無視できません。もっと短期的な話をすれば、作るべき予算表のフォーマットが予算編成の最中に変わるなんてことも、時々あります。一般論ですが、伝票処理業務等と比べて、管理会計領域の要件が変化する速度はかなり速いと言って差し支えないでしょう。

一方、業務システム開発で必ず叫ばれるのは「業務要件を確定する」ことです。比較的長期にわたって「業務要件」が大きくは変化しないことが、システム開発の(望ましい)前提になっているわけです。管理会計の領域が、業務システム開発のこうした前提に馴染みにくいことは容易に理解できます。

Excelの素晴らしさ

しかし、このようにシステム開発に馴染みにくい領域であるにもかかわらず、Excel は立派に活躍しています。「Excelレガシー」と揶揄されるような問題はあるとはいえ、それも、Excel が使われすぎるほど使われていることの裏返しなのです。

Excel は、なぜ、こんなにも成功しているのでしょうか。

それはもちろん、(プログラムを白紙から開発する場合と比べれば)驚くほど簡単に、ユーザ自身の手で、集計表や入力表、きれいな報告資料などを作成できるからです。
「簡単に」と「ユーザ自身が」という二点がともに重要です。
簡単でなければ、費用対効果の問題をクリアできません。また、開発やちょっとした修正さえユーザ自身が行えず、システム開発担当者に依頼しなければならないのであれば、依頼→説明→作業→確認という一連のサイクルに時間がかかりすぎる、という理由だけで、変化に対応できず、Excel がこれほどヘビーに使われることにはならなかったでしょう。

Excelがこの2つの特長を備えていたおかげで、ややこしい管理会計の領域であっても、そこそこのコストで、システムを少しずつ作り、要件の変化に応じて修正し、成長させていくことができるようになったわけです。

Excelの限界

とはいえ、Excelにも限界があります。Excelはデータの複雑な計算や表示には向いていますが、多量のデータの管理や集計には向いていないのです。

例えば売上予算を店舗別に策定するとしましょう。
同じレイアウトのシートを、店舗別に何十枚も作成し、串刺し集計やらシート間参照のための長大な式やらを使って、セル値を集計しなければなりません。
データが店舗ごとに別々なのはわかります。しかし、店舗がひとつ増えたからといって、こうした多量の計算式をいちいち修正することを余儀なくされるというのは、いかがなものでしょうか。式はコピー&貼り付けできるとはいえ、貼り付けミスでもあれば1セルずつ目視チェックする必要があるのです。
これは理不尽だと私は感じます。
あるいは、全店舗のデータ入力後に、シート中の計算式が一か所間違ってることが判明したらどうなるでしょうか。全店舗のシートを個別に修正しなければなりません。
こんなことを要求するのは、一種の暴力のような気がします。

こうしたチェックや修正の手間だけならまだ良いかもしれません。しかしシートとシートの間に張り巡らされた式は、いずれ誰にとっても理解しがたくなり、これらのシートの群れは次第に「腐って」いくのです。

冒頭で述べた「Excelレガシー問題」はこうした状況を指します。

この問題の根本原因は、ひとつのシート中に、表示レイアウト・計算式・データの三者が同居していることです。
どうしてシートを店舗別に設ける必要があるのでしょう。レイアウトや計算式が全部同じなら、本当はひな型シートひとつで良いはずです。シート(すなわち、レイアウトと計算式)とデータは分離して、データのみ店舗別に管理すべきなのです。
しかし、Excel ではこれが「うまく」できません。

管理会計ツールの要件

さて、ここまでの話を踏まえれば、管理会計の分野でExcelレガシー問題を解決するのにどういったツールが必要か、だいたい見えてきます。私が考えているのは以下の三点です:

  1. Excelの欠点を克服できること
  2. ユーザ自身が簡単にシステムを修正、成長させていけること
  3. Excelを置換するのではなく補完できること

一番目は当然です。Excelの持つ「データ管理能力の弱さ」という欠点を克服できることが最低要件です。

二番目も重要です。「ユーザ自身が」「簡単に」使えるからこそ、Excelは広く受け入れられたのです。
新しいツールも、この2点に十分に配慮しなければ、成功は難しいでしょう。導入当初は使われても、徐々に業務ニーズと合わなくなり、捨てられてしまう可能性が高いと思います。
もちろん、Excelでも、高度な使い方をする場合には、専門家の助けを求めた方が良い場合もあります。初めて使う人はトレーニングが必要かも知れません。しかし、日々の業務の中で頻繁に起きる変更にはユーザ自身が対応できます。この点が重要なのです。
データ管理能力を補完するだけなら、例えば、Excelの背後で Microsoft Access のようなデータベース(RDB)を使うこともできます。しかし、住所録DBでも作るならともかく、管理会計分野でこうしたRDBをユーザが使いこなすのは簡単ではありません。さらに、仮にITのプロが使ったとしても、集計処理や更新処理などのために相当な作り込みが必要になるものです。

三番目には少し異論があるかもしれません。良いツールならば、別にExcelを置換してしまってもいいじゃないかと思われる方もいるでしょう。
しかし、そうするにはあまりに深く Excel は業務に浸透しています。Excel の上に、予算編成や実績管理のための膨大な仕組み(シートやブック)が積上げられてきています。 これらを全部捨てて、一気に別のツールで作り直すなんて、無茶なことです。
それに、「学習曲線」というものがあります。管理会計の担当者は、みなさん、プロ級の Excel使いです。そして、そうなるまでには、多大な投資(時間)がかかっています。新しいツールを導入したとしても、当初は、十二分には使いこなせないでしょう(Excel を使い始めた時と同じです)。早く報告資料を仕上げなければならないとき、新しいツールが足枷になるようでは困ります。そのツールでどう対応すれば良いか分からない仕事があれば、その部分だけ、使い慣れたExcelに戻って、取り敢えず片づけてしまいたいのです。そしてその後で、本来どうすれば良かったか、じっくり考えて、仕組みを成長させる、というサイクルができれば、徐々にツールに習熟し、それとともに業務を改善していくことができるでしょう。

取り敢えず、締めくくり

私としては、こうした要件に応えるツールとして、FusionPlaceを開発してきたつもりですが、その話はまたの機会にしましょう。今日のエントリーの締めくくりとして申し上げたいのは、「管理会計業務の改善はきれいごとではない」ということです。各企業の管理会計の在り方は、トップの想いや各部門の考えその他色々な人間的要素がからまった結果として、その企業や事業部門に固有の形に出来上がっており、また、変化しています。そして管理会計を支える業務の形も、また、各社各部門固有の形になっています。これを無闇に、外から持ってきた「ベストプラクティス」にあてはめるのは、最善でもなければ可能でもないと、私は思っています。

「あるべき姿」は、その場その場で、一生懸命考えるしかないのです。そして、一生懸命考えた結果、「全社最適」「ベストプラクティス」な管理会計プロセスが現実に可能になるのであれば素晴らしい。しかしその前に、その場その場で一生懸命考えた結果を、できるだけ手早く形にできるツール、日々の業務のための時間や手数を節約して「もっと一生懸命考える」ための時間を作るツール、ユーザを支配する「システム」ではなく、ユーザの手に馴染む「道具」になるようなソフトが、まず、必要なのではないでしょうか。

そんな想いで、FusionPlace を作っています。

[*1] このエントリーでは、「Excel」いう固有名詞を使っていますが、これは、スプレッドシートソフト一般を代表させる意図で用いています。Excel と他のスプレッドシートソフトを比較して、良いとか欠点があると言っているわけではありません。