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決算処理の本質と仕訳処理

複式簿記ではすべての取引を「仕訳」という単一の形式で表現して記録する。このことによって、企業活動の全体像をB/S・P/Lという単純に要約されたかたちで捉えることができる。これは複式簿記のすばらしい特長である。しかし、その反面、複式簿記になじみすぎると、すべての取引を単一の形式にあてはめて考えてしまうがゆえに、「取引」の中にもじつはさまざまな性格を持つものがあるという点を忘れがちになる。

特に興味深いのは、決算処理にあらわれるさまざまな仕訳である。たとえば、減価償却を採り上げよう。これは会計上は「取引」とされるが、日常的な感覚ではそうは呼びがたい。社外との間でじっさいに行われた活動ではなく、会計基準に沿ってB/S・P/Lを作成する上で必要なデータ加工処理にすぎないからである。
インプットが間違っていれば、いくらデータを加工してもアウトプットは正しくならない。固定資産の購入時の処理を間違えれば、減価償却の計算結果も誤ったものになる。ひとつの「取引処理」のあとに複数の「データ加工処理」が数珠つなぎになっていることもある。製造業ならば、減価償却の処理結果を受けて原価計算が実行されるだろう。そうすると、購入時の処理を誤った場合には減価償却だけではなく、原価計算もやり直さなければならない。つまり、取引処理が訂正された場合、データ加工処理の連鎖的な訂正が引き起こされるわけである。

データ加工処理の結果も、通常の取引と同様に「仕訳」として帳簿に反映される。問題は、仕訳を訂正するのは通常かなり面倒だということである。すなわち仕訳を訂正するさい、対象の仕訳を書き換えるのではなく、取り消し仕訳(赤伝票)と正しい仕訳(黒伝票)を新たに作成する、いわゆる「赤黒」方式が採られる。減価償却原価計算の処理をやり直したときに赤黒方式で仕訳を作成するとなれば、ただでさえ膨大な仕訳が三重に(当初の仕訳+赤+黒)作成されることになる。なんともばかばかしいことである。じっさいにはこうした方式をとらず、必要最小限の修正仕訳を手で起票して投入しているケースも多いだろう。しかし、その場合は修正漏れのリスクがある。

こんなことになる理由は、「データ加工処理」のけっか作成される仕訳の訂正にあたって、通常の「取引処理」用の仕訳の場合と同じ赤黒方式を適用していることだ。しかし、取引処理においては、一件々々の仕訳が訂正された場合に確実にトレースできるという点からこのような方式が合理的だとしても、データ加工用の仕訳に対してそういった厳格さが必要なのだろうか? むしろ、処理を何度でも繰り返して実行し、最後に「数字が固まった」時点で仕訳を確定する、といったルールの方が決算処理のニーズにマッチしているのではないかと思う。

私は数年間、連結決算システムの開発にたずさわってきた。連結決算はまさに「データ加工処理」のかたまりである。こちらの世界では、資本連結や取引消去といったデータ加工処理を「回し直す」都度、以前の仕訳を消去して新たに仕訳を作成する方式が一般的だ。赤黒方式というルールが支配的な単体決算の世界とは異なる。しかし、この違いは、本来は「単体、対、連結」ではなく「取引処理、対、データ加工処理」という対立軸に由来するものではないだろうか。
単体の決算処理においても、こうした観点から仕訳の方式を見直すことで、決算業務の効率化・スピードアップを図れる可能性がある。