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会計×IT の深層へ

技術と業務の狭間で

システムエンジニアは、技術と業務の両方わからなければいけないとか言われる。だけどその後に「両方やるのは、大変だけどね」と、付けたしがある。じゃあどうすればいいのと誰でも思うに決まっている。それでみんな、技術か業務どちらかを「選択」してしまう。


だけど、本当のところ、技術と業務の両方やるのはそれほど大変なことではないのだ。問題は「両方やる」ということの意味をどう捉えるかだ。例えば、ある業務分野のユーザを聞き手にして業務の将来像なんかを講釈できて、同時に、新しいシステム技術の動向とビジネスインパクトなんかも、技術の専門家と同じ程度に語れる、ということだと定義すれば、そりゃあ大変だろう。スーパーマンじゃないとできないに違いない。

僕も「技術と業務の両方やる」タイプの端くれだが、僕の場合、そのことの定義はずっと慎ましい。どう慎ましいのかというと、上の例で、話すテーマと聞き手の組み合わせをとっかえてしまうのだ。つまり:

「ある業務分野のユーザを聞き手にして、新しいシステム技術の動向を講釈でき、システム技術の専門家を前にして、ある業務分野の将来像を語れる」

ということだ(えっ?サギだって?)。こう定義すれば、ずいぶん肩の力が抜ける。だって、どちらも、自分がある程度知っていることをシロウト相手に語ることなんだから。専門家相手に語るのとはワケが違う。

ユーザから見れば僕は技術屋さんのように見えるから、僕は馬鹿げた質問をいくらしても構わない。「シロウトですみませんが、伝票で間違いがあったとき、なぜ赤伝票を入力するんですか?前の伝票を削除したら何がまずいんですか?」。経理の専門家なら、恥ずかしくてとうてい口に出来ない質問だが、僕は技術屋だからしゃあしゃあと聞ける。ときどき、業務についてのちっちゃな知識を披露すれば、「おっ、こいつ技術屋のくせに、業務も勉強しようとしているな。愛い奴じゃ」とか思ってもらえる。

反対に、システム技術の専門家と話すときは、「僕は業務屋です」。以下略。

この方法の難点は、業務専門家・技術専門家どちらのコミュニティからも専門家仲間として扱ってもらえないことだが、何のことはない。専門知識があってもメシが食える保証にはならないのが自由競争社会の掟だ(これについては、若い人ほど勘違いしているが)。それに、自分は、専門知識を築いてきた先輩たちの輝かしい伝統の末席にいるといった認識がもたらす安心感は望めないが、技術と業務の狭間は、日々、新しい気づきの連続だ。現実の業務システムには本に書いていないことの方が多いのだから。いつでも新しく考える材料に事欠かない。これは僕のように飽きっぽい性格の人間にとって、大変、ありがたい。

ということで、何が言いたいのかというと、特に若い人に言いたいのだが、技術と業務の両方わかる人になるのは「言うは難く、行なうは易し」ですよ、ということだ。専門家は専門知識を自分のプライドの源泉にする。僕のような、二つの分野を繋ぐ立場を選ぶと、そういった「よりどころ」はない。この違いを飲み下せない人もいる。しかし飲み下せれば、後は簡単だ。