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定額給付金はそんなに愚策か

定額給付金の評判がどんどん悪くなっている。あまり良く考えられた政策に見えないことは確かだが、だからといってここまで批判を受けるほどの愚策でもないと僕は思うのでその理由を説明してみる。


この政策に対する世間の批判は以下の三点に集約されるだろう:

  1. 景気浮揚効果が小さい…麻生首相の国会答弁(1月6日)では定額給付金GDP押し上げ効果は0.2%。日本の名目GDPは516兆円(2007年度)だから0.2%なら約1兆円である。2兆円かけて1兆円の効果を得ることに意味があるのか。
  2. 高額所得者にも給付されてしまう…なぜ高額所得者に給付する必要があるのか。高額所得者に給付する分はやはり無駄じゃないのか。
  3. 事務コストがかかりすぎ…給付金の支給にかかる事務経費が、一部では数百億~一千億円程度にのぼると言われている。無駄じゃないか。

さてまず一番目についてだが、景気浮揚策と考えたなら、確かにこんなに効果の薄い政策は論外だろう。しかし定額給付金は景気浮揚策だったのか? 当初はたしか、定額減税と比較して、納税していない世帯に対しても給付できるというメリットがあるから定額給付金にするという説明がなされていた。すなわち、景気浮揚策ではなく生活支援策とするのが本来の趣旨であったはずだ。だから、その効果を評価するなら、GDP押上げ効果の大小ではなく、低所得世帯の困窮をどの程度救えるのかを議論するのが本筋なのだ。

次に二番目の点について考えよう。今回の定額給付金の原資はどこから来るのか。短期的にはともかく中長期的に見れば将来の増税で賄われるに決まっている。そして、今後セーフティネットの整備をきちんと進めていくならその負担は高額所得者に傾斜配分される。であるならば、高額所得者からは、今給付する以上のカネを、将来、税金として回収するのである。だから高額所得者が定額給付金を受け取ってしまっても別段かまわないし、とりたてて「さもしい」ようなことでもなく、また、その金が無駄になるわけでもない。単に高額所得者の税負担を将来に繰り延べただけの話である。

最後に事務コストについてはどうか。確かにこれは国から見たらコストかも知れない(税金の無駄遣い!)。しかしこのコストの大部分は究極的には国内の人件費になるだろう。事務を担当する人々にとっては所得になるのだ。まあ、紙が余分に使用されるとか配達するのにCO2が排出されるとかいった問題はあるだろう。しかしその一方で、家計の所得増というメリットもあるはずだ。安泰な公務員の給与を増やすのも腹立たしいと考えるなら、この際、失業者を雇って事務を担当して貰うといった工夫も可能じゃないだろうか。

以上のように、ある程度合理的な説明が可能であるにも係らず、定額給付金がこれほど袋叩きにあっているのは、主として自民党の説明がへたくそだからだ。低所得世帯への生活支援を重視した策であることを徹底して訴えれば良いのに、景気浮揚策としての効果もあるといったツッコマレビリティの高い答弁をする。高額所得者にも払うけれど将来きっちり回収しますよと言っておけばよいのに、なにか高額所得者が受け取るということに、公平性や倫理の面で大きな問題があるかのような印象を自分たちで作り出す。さらに、あえて話すならば、将来の税体系全体についての展望をざっくり語ればよいのに消費税増税だけ取り上げて話をややこしくする。まあ、もともと公明党のゴリ押しで入れた政策だから自民党としては最初から気乗りしなかったのだろうが、それにしても冷静に考えれば、もっと納得を得やすい説明ができた筈である。

どんな政策でも、うまく説明すれば愚策にすることができるという良い勉強になった。

ついでに

今回の騒動を将来の糧にするならば「マイナスの所得税」を真剣に検討すべきじゃないかと思う。マイナスの所得税とは、生活保護など税制と別建ての仕組みではなく税制の枠内で低所得世帯を保護する制度だ。すなわち所得の少ない世帯には、その少なさに応じてマイナスの所得税が給付される。このような制度であれば生活保護を受けている世帯と受けていない困窮世帯の間の不公平も是正できるし、今回のようなケースでも、税制の枠内で給付が可能だったはずだ。