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ERPと会計帳簿

ERPにおける「統合」とは何かと考える場合に、「会計帳簿」の概念がひとつのキーになのではないかと最近考えるようになりました。


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業務システムのデータベースは、いってみれば大きな帳簿です。これは会計システムに限らず、販売管理や生産管理であっても、発注や受注、在庫、部品の構成表といった帳簿上の記録を管理しているわけです。データベースは「帳簿」であるという気づきはデータモデルの設計に興味深いインパクトをもたらすのですが、その話はまた後日。今日は、データベースが帳簿であるとしてどんな帳簿なのかという問いかけをしてみたいと思うのです。

もっと具体的に言うと、帳簿を「会計帳簿」とそれ以外の「普通の帳簿」と分けてみたなら、何か面白い視点が得られないかという問いかけです。

いうまでもなく会計帳簿は監査や税務調査の対象となりますので、きわめて厳格な取り扱いが要求されます。それに対して普通の帳簿(呼び方がしまらないので、以下では「業務帳簿」と呼びます)はそれほどでもありません。両者の特性を比較すると以下のようになるでしょうか。

帳簿の比較-概念

この表は概念的なので、少しピンと来にくいかもしれません。業務帳簿の例として「パソコン管理簿」を取り上げ、会計帳簿である「固定資産台帳」と比較してみましょう。

帳簿の比較-例示

いかがでしょう。パソコン管理簿と固定資産台帳は、対象とする資産の範囲が重なっているにも関わらず、管理項目や管理の方法がずいぶん違いますよね。

一般的に、業務帳簿と会計帳簿は、目的や管理者が異なるし上の表で見たように要件も異なるので、対象が重なっているとはいえ別々の帳簿として管理されます。これは帳簿がEDP化された場合も同じです。それぞれ(論理的に)別のデータとして管理されるのです。

さて、そういった状態で、会計システムと業務システムの「統合」を考えた場合、どのようなアプローチがあり得るでしょうか。まず考えられるのは、従来通り、両者を別々の帳簿と位置付けたうえで、取引データやマスターデータを接続することによって両システムをゆるやかに連携させるアプローチです。ERP以前には業務システムの統合と言えばこうしたことを意味していました。こうした「統合」方式の場合、取引データが接続されるその時点においては両システムの(その取引に関する)データは完全に整合がとれていますが、時がたてば、業務システム側だけでデータが修正され、整合性が失われることもあります(「ゆるやかな連携」アプローチ)。

一方、一部のERPシステム(SAPなど)は、業務帳簿と会計帳簿を一体化しよういう志向を持っているように見えます(「帳簿一体化」アプローチ)。この場合、要件がヨリ厳格である会計帳簿の側に寄せる形で一体化が行われるのは自然なことです。上述した固定資産台帳については、あまりきびしく統合する必要性はないと思いますが、特に在庫関係の帳簿を統合するのは、こうしたERPシステムを導入する上での前提条件に近いものとなっています。

過去の日本型統合モデルでは、在庫数量は在庫管理システムが管理し、それを月次で会計システムの一部である棚卸受払計算システムに引き継いで、金額計算を行うといった分担が一般的でした。数量計算は業務システム、金額計算は会計システムという分担が、部門間の責任分担の在り方も反映して、成り立っていたわけです。そこにERPシステムを導入し両者を統合すると、仮単価発注ができなくなるとか、会計上は資産計上せず簿外で数量管理だけしていた補助材料的なモノも金額計算の対象になってきて単価登録が大変といった事象が発生することになります。これらはシステムの機能の不足によるというよりは、業務帳簿と会計帳簿を統合したことの必然的な帰結です。一方その反面、会計データのリアルタイム性が増すとか、会計データと業務データのつながりが可視化できるといったメリットもあるわけです。

こうしたことを考えると、まずERPシステムを導入する立場からは、導入しようとしているERPが上述したいずれのアプローチを採用しているのか、早い段階でしっかり見極めないといけません。ERPパッケージと言ってもすべてが帳簿一体化アプローチを採っているわけではありません。現状の帳簿管理の責任分担を大きく変えたくないのであればそういったパッケージを選択すべきです。反対に帳簿一体化を志向するのであれば、早い段階から気合を入れてメリットを明確化し部門の説得にあたる必要があります。

次にシステムを作る立場からみれば、上述した2つのアプローチ以外には本当に工夫しようがないのか、興味が持たれるところです。電子帳簿保存法を活用する企業も増えつつあります。そう遠くない将来、紙の帳簿は姿を消しすべてが電子データという形になるでしょう。そうした場合、「ゆるやかな連携」アプローチでは、整合性が確保された状態でデータを保存しておくことが本当にできるのか、心もとない感じがします。一方、「帳簿一体化」アプローチが要求するような厳格性をすべての業務帳簿に要求するのもどうかと思います。

こう考えると、帳簿の在り方に関するこのような検討は、地味ですが将来の業務システムの姿に大きく係ってくるのではないかと思うのです。