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仕訳と元帳の関係

仕訳と元帳の関係など、あらためて考えてみようという気にならないかもしれないが、ちょっと簿記教科書流の思考をはなれてシステム視点から眺めてみると、意外に興味深いことも隠されている。
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仕訳-元帳システムはいくつかの視点で分類できる。今回、取り上げたいのは、私が個人的に「オンブック/オフブック」と呼んでいる分類方法だ。オンブック方式については、単体会計での普通の仕訳を思い浮かべて頂けばよい。仕訳を転記して元帳の勘定残高を変更すれば、その効果が翌期(翌年度)にも及ぶ。「(借)商品 100 (貸)買掛金 100」という仕訳を元帳転記すれば、商品勘定の期末残高も翌期首残高もその先の年度の残高も100増加する(※①)。あたりまえのことだ。

一方、連結会計では、この「あたりまえ」が成立しない。例を用いて説明する。子会社Aが子会社Bに販売した商品が期末時点でB社に届いていないとする(このような取引を「未達取引」と言う)。この商品はB社の個別B/Sに載らないが、連結会計上はこれもB/Sの商品有高に含めなければならない。そのため「(借)商品 100 (貸)買掛金100」という連結仕訳を作成してB/Sを修正する。この仕訳は商品勘定の期末残高を100増やすが、単体会計とは違って、この効果は翌年度に及ばない。で、どうするかというと、翌年度にはあらためて同じ仕訳を作成・転記するのである。このように前年から引き継がれた仕訳を「開始仕訳」と呼ぶ。ではこの仕訳は開始仕訳として以後ずっと引き継がれていくのかというとそんなことはない。翌年度には商品がB社に届いて未達は解消しているので本当は修正はもはや不要である。そこで、開始仕訳を取消す仕訳「(借)買掛金 100 (貸)商品100」を作成・転記する。開始仕訳と取消仕訳は完全に打ち消し合うので、翌年度以降は開始仕訳は不要となる(※②)。
このように、仕訳の効果が翌期(翌年度)に及ばないという特性をもつ仕訳-元帳システムがオフブック方式である。

連結会計でオフブック方式が採られるのは、ひとつには手記式簿記時代の名残である。すなわち手作業で連結決算を行う場合、「連結精算表」というワークシートの各社欄にまず連結会社各社の財務諸表数値を記入し、さらにワークシートの修正欄に連結仕訳を転記して、各社欄と修正欄の数値を合算して連結数値を算出する。連結仕訳は各社の元帳に転記されることはない(だから、連結会計手続きは"off-book"、すなわち「帳簿外」であると言われることがある。これが「オフブック方式」という呼称の由来だ)。しかし、EDP化された連結会計システムでは「本当の元帳」か「ワークシート」か、という区別にはあまり意味が無い。データベース上に「連結元帳」テーブルを保持する設計も普通に行われている。「ワークシートだからオフブック」という論理は説得力を失っているわけだ。

では、連結会計でもオンブック方式を採用すればよい、ということになるのだろうか。じっさい、一部の海外製統合業務パッケージソフトはそういう設計になっている。しかし私見では、オフブック方式に歩がある。
その理由をご理解いただくには、「すべての連結仕訳は一過性の修正仕訳である」ということにまずご同意いただく必要がある。前述した未達取引修正仕訳は典型的な一過性修正仕訳である。未達差異は翌期には解消され修正仕訳も必要なくなる。一過性修正仕訳とは、このようにいずれ解消されるはずの差異を元帳に反映するための仕訳である。
ところで、連結仕訳とは、個社の視点から作成された仕訳を連結企業集団の視点に立って修正する仕訳に他ならない。単体会計と連結会計ではウチ/ソトの認識が異なる。これこそ、連結仕訳が必要とされる唯一の理由である。各社から見ればソトとの取引だが連結企業集団の視点からはウチに留まっているものがあれば、それが連結仕訳による修正対象となる。このような差異はいずれ解消され、各社からみても連結企業集団からみてもソトとの取引になる。この点が判りにくければ次の点に思いを致して頂きたい。すなわち、すべての連結会社を合併してしまえば単体会計と連結会計でウチとソトの認識にズレが無くなり、連結仕訳は不要になる。
オフブック方式を採ると、期首時点で未解消の一過性仕訳を開始仕訳として投入することが強制される。これによって、開始残高金額はいずれかの一過性仕訳に紐つけられ、容易に説明可能になる。オンブック方式ではこうはいかない。開始残高は過去すべての期間の仕訳の金額が累積されたものなので、過去のすべての年度の元帳を手繰っていかなければ、開始残高の説明がつかない。もちろん仕訳で説明をつけなくとも、別にドキュメント(計算表など)を用意して説明をつけることは可能である。しかしこの場合、期首残高とドキュメントの金額の辻褄が合うことを保証するのは人間の注意力である。このように、オフブック方式は、一過性の修正仕訳の処理に適しているがゆえに、連結会計に向いているのだ。

前述した海外製統合業務パッケージソフトでは、上述したような「一過性修正仕訳の説明の容易さ」という微妙な業務要件に留意せず、ワークシートなんて手処理の発想はヤメにして、単体会計と同じようように元帳を持てば良いだろうと考えて、オンブック方式にしてしまったのかも知れない。従来の方式に囚われすぎるのも問題だが、それを捨てる際には三遍考えるべきだろう(※③)。

ところでオフブック方式は連結会計にしか適用できないのだろうか。事例は多くないが、単体会計でも、管理会計目的の修正仕訳や、財務会計の決算整理仕訳(の一部)に使える。まず前者について。月次決算では、販売システムが締められ、次に一般会計システムが締まる、というように日を追って段階的にシステム入力が締め切られていく。そうした条件の下で、販売システムの5月度締め後に出荷入力漏れが発見されたとする。販売システムでは、5月度取引はもう入力できない。そこでこれを6月度取引として入力する。しかし、管理会計上は5月度の売上に含めたい。そこで5月の日付で修正仕訳を作成し、一般会計システムに入力する。しかしそうすると、それを取消す仕訳を6月の日付で入力しなければならなくなる。翌月初の締め処理時には正しい仕訳(ただし日付は6月度)が販売システムから自動接続されるからだ。こんな面倒くさい処理を避け、締め後の勘定元帳数値をスプレッドシート上で修正して管理会計数値を作っている会社は結構多い。オフブック方式の管理仕訳入力機能があれば、こういうケースで取消仕訳は不要だ。うまく適用すれば管理決算業務を効果的に支援できる可能性がある。また、財務会計の決算整理でも、表示上の勘定組み換えなど、翌年度に引き継ぐ必要のない仕訳が結構ある。こうした仕訳にもオフブック方式が向いているかもしれない。

※① P/L勘定については年度の境界を越えると残高が引き継がれない。しかし、P/L勘定への転記額は利益剰余金に集約されて翌年度に引き継がれるので、やはり仕訳の効果は翌年度にも及んでいるのである。

※② これは少し理論的な説明である。このようなケースでは、実務では開始仕訳・取消仕訳とも作成しないことも多い。作成しようがしまいがB/S・P/Lに与えるインパクトは同じだからだ。ただしC/Fの作成まで視野に入れると、理論どおり開始仕訳と取消仕訳を作成したほうが良い。開始仕訳は期首B/Sを修正するものなので当期C/Fには影響を与えないのに対して、取消仕訳は当期中の取引仕訳に対する修正なので、当期C/Fに織り込まなくてはならないからである。

※③本当は、単体会計の元帳と連結会計の元帳で異なる設計アプローチを採るべき点は他にもあるのだが、今日はこのへんで止めておく。